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近頃は日が延びてきて、十七時というと外はまだ充分明るい。けれど白川町記念図書館はそこで閉館時間となる。よその図書館よりも早い時刻だが、それは周りが観光街であることと、ここ自体も「記念図書館」として観光施設も兼ねている特殊性によるのだろう。閉館直前のカウンターは駆け込み返却の対応で俄かに慌ただしくなる。この時ばかりはカウンター仕事の苦手な六花も有無を言わさず駆り出される。返却業務が半ら片付いて殆ど利用者が退館した頃、金木さんが近づいてきた。
「柳さん」
緩くウェーブのかかった茶髪を耳に掛けながら、黒いエプロンのポケットからメモ帳を取り出す。
「今日私達が施錠当番だから。覚えてる? 」
メモ帳から目線をちらりと六花に移して彼女は問うた。言われて、今日は金曜だったと思い出す。返却された本を無意味に揃えながら何度か頷く。
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
*
明日に備えての雑務は全て片付いた。返却ポストも確認したし、見廻りも終えた。トイレもゴミ箱も綺麗だったはずだ。黒いパンツと白いシャツの仕事着から私服に着替え終えると、ロッカー室の外で既に着替えを終えた金木さんが待っていた。
図書館の鍵は金木さんが持っている。消灯し、施錠を二人で確認し、鍵を預かった職員が翌日早くに出勤して開錠するのだ。
じゃあ、良いねと金木さんと図書館を出ようとした時だった。
「あ、ちょっと…… 」
「どうかした? 」
「何か動いた気がして」
大閲覧室を振り返った一瞬、奥の書棚の向こうで何か動くものが慌てて引っ込んだ──ように見えた。ちょっと見てきます、六花は荷物を持ったまま駆け出した。
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