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ここ、白川町記念図書館は大正時代に建てられた名家の邸をリノベーションして図書館として使っており、館内の蔵書だけでなく建物自体が生きた史料となっている珍しいタイプの施設だ。図書館であると同時に記念館なのである。
柳六花はこちらに向かってうねりながら近付いて来るバスをガラス越しに眺めていた。ここからは下の街の営みがよく見える。白川町記念図書館の三階、職員用休憩室の小窓である。この観光街をもっとも美しく、もっとも広やかに眺めることのできる場所は実はここの窓辺ではないかと、六花は踏んでいる。
白川町は観光の街である。理由は、この情緒ある美しい街並みだ。こんな山坂の多い土地に、それでもその昔資産家の住まいが集中し栄えたそうなのだ。現在はその跡地や周辺の施設、それに沿って発展した商店街が観光スポットとなっている。
昼休憩は慌ただしい。さっさと昼食を済ませて、残りの時間を窓から街並みを眺めて過ごすのが六花の習慣になっていた。
ここで働き始めて三年程になる。春、夏、秋、冬、と見ることの出来る景色は三巡した。今は春と夏のあいだ。すぐ近くの小学校の桜並木は花を散らし、若葉が日々緑の濃さを増している。白で統一された校庭の遊具や校舎さえも雰囲気があって街に溶け込むのは、何年か前の改装と拡大の際、敢えてそういうデザインを採用したからだそうだ。
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