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バスが図書館前の停留所で止まり、乗客がぞろぞろ降車して来るさまを眺めていたときに背後から肩を軽く叩かれた。
「そろそろ時間だよ」
声を掛けてくれたのは同僚の金木さんだった。ここの職員の中で一番六花と歳が近いのが彼女である。六花は最年少だった。
軽くお礼を言って他の何人かの同僚と共に休憩室を出る。臙脂色の絨毯が敷き詰められた階段を下りながらエプロンの腰ひもを結び直した。一番下っ端である六花の午後の仕事は大体決まっている。ひたすら配架だ。
*
本を満載したカートを目当ての書棚近くで止めると、その書棚にしゃがみ込んで熱心に背表紙を目で追っている少女がいた。背負っている水色のランドセルの方が、彼女の背中よりまだ大きい。少女は六花の気配を敏感に察知すると勢いよく立ち上がり、くちびるを結んで逃げるようにして走り去ってしまった。ふと気付いて腕の時計を見ると、15時30分を過ぎている。そういえば微かにこちらにも流れて来る下校時刻を報せる校内放送を先程聞いたような気がする。
──逃げなくてもいいのに。
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