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現在、スクリーンの中では、ギター片手に男が歌っている。
場所はライブハウスだろうか?
ライトに浮かび上がる埃が見える。その他にもドラムやベースがいるが、アップになっているのはその男だった。
こいつが恋の相手役?
最近テレビでもよく見る顔だった。
確かモデル出身で、流行りの薄口系顔だとかで人気があると、クラスの女子が言っていたような気がする。
すっきりした目元。薄い唇。
ふうん。世間では今こういうのがモテるのか。
そういえば、この俳優の名前は何だっけ……?
関係のないことばかり頭に浮かべ考えてみる。
そうしていないと、さっきのことが、頭をぐるぐる回って仕方なかった。
この映画が終わるまでは、健には待つしか、出来ることはないのだ。
気分を変えようと、ドリンクホルダーから飲み物を取ると、一口ストローで飲む。
炭酸の刺激が、口いっぱいに広がる。
心なしか気持ちも少しクリアになった気がした。
隣をそっと伺うと、正面をじっと見つめる明日香がいた。
身じろぎ一つせず、真剣にスクリーンを見つめるその姿勢からは、何も取り零さず吸収しようとしている気迫みたいな物を感じた。
気付かれないうちに、視線を戻す。
よく知っているはずの幼馴染が、今やとても遠い存在に思えた。
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