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座席に着いた後も健は、さっきのことが気になって仕方なかった。
初日とあって、席は見渡す限り全て埋まっている。
高校生の恋愛物とあって、客も同年代が多かった。
半数以上がカップルで来ているようで、とりあえずそういった面では、ほっとした。
明日香に連れられ、こういった映画に来るのは慣れているはずなのに、いまだ場違い感がぬぐえない。
照明が落とされる。長い予告の末、映画が始まった。
――制服姿の女子が、海辺で泣いている。
――夕焼けが彼女の顔に落ち、画面も茜色に染まる。
そして、タイトルが現れた。
これ、どんな話だっけ?
明日香に観たいと言われたとき、ネットでも調べたはずだが忘れてしまった。
夕飯中、テレビで流れたCM。
『この恋に、あなたは必ずなく――』みたいな宣伝文句が、確か一緒に流れたはずだ。
それまでぼんやりと、興味なさそうにクイズ番組を眺めていた明日香が、その言葉を聞いた途端反応した。
「健、私これ観に行きたい。明日行こうよ」
「今は受験があるから無理だよ。それにまだやってない」
「そういうものなんだ。じゃあ、いつなら観られるの?」
今思えば、あの時の会話だってどこかおかしかった。同じ受験生のはずなのに、明日香には危機感という物がゼロで、母から言わせれば、明日香ちゃんは優秀だからね、の言葉で済ませられたが。
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