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人は恋をする生き物だ。恋をしない者は、生きている資格なし。
これは明日香の言葉だ。
その言葉通り、彼女はいつだって、恋をしていた。
* * *
「明日香ちゃん、本当美人だよな!」
「永沢先輩と付き合ってるんだろ? マジお似合い!」
「え? 川上先輩とは終わったの? 早くない?」
朝っぱらからうるさいなぁ。
健は寝癖のついた頭をかきながら、はしゃぐクラスメート達を振り返った。
「最長二週間だっけ? 今回もすぐに別れるんじゃね?」
「だよな! そしたら俺にもチャンスあるかも!」
「なぁ? 健?」
最近染めたばかりの自慢の金髪をかきあげ、雄哉が力任せに肩を組んでくる。
「知らねぇよ! てかいい加減諦めたら? もう振られてるんだし」
「ネバーギブアップだよ! この世には咲かない花なんてないの。俺はいつしか明日香ちゃんという、綺麗な花を咲かせてみせる!」
売れない歌詞のようなことを叫ぶ雄哉を放っておいて、健は1-Bの自分の教室へと向かった。
この春、健は高校に入学した。早いもので二ヵ月が経とうとしている。
この場で知り合った彼らは、よく言えば馬鹿で付き合いやすい奴らばかりだった。
「あー。この際幼馴染でもいいや。健、稔と明日香ちゃん、交換してくれ!」
遅れて教室にやってきた雄哉達は、まだ馬鹿話を続けている。
「明日香は年上しか相手しないの、知ってるだろ?」
「知ってるけどさぁ! 勿体ないじゃん。あんなに美人なのに」
ごねる雄哉に健は、可哀そうに。と思う。
こいつらは知らない。明日香の秘密。誰にも信じてもらえない事実。
「まぁ。伝えとくよ。お前の熱い気持ちは」
健は慰めるように言うと、一限目の授業の準備を始めた。
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