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「明日香ちゃん、ほら、もっと食べて」
賑やかな気配。食器のかすれる音。コトン。お皿が置かれる。どこかはずんだ楽しそうな声がする。
「ありがとうございます。いただきます」
さっきのは母さんの声。もう一人は……? 珍しくお客さんでも来ているんだろうか。
「健! いい加減起きなさい! もう本当ごめんなさいね。明日香ちゃん」
「いえ。大丈夫です。あ! これ、おいしい!」
「嬉しい。よかったわぁ。遠慮せず、どんどん食べてね」
甘ったるい砂糖菓子のような声。女の子特有のふわっとして、笑い声は鈴の音みたいな。
「それにしても、明日香ちゃん綺麗になったわね。こんな子が幼馴染だなんて、健は幸せね」
幼馴染?
「――痛っ!」
激しい頭痛に襲われる。頭に手をやろうとするが、腕がひどく重い。
体中がガチガチに固まって、石にでもなっていた気分だ。
「健? 大丈夫?」
心配そうに、リビングのソファに寝そべる健を覗き込む人影。
頬に触れるヒヤリとした感触。
その氷のような冷たさに、既視感を覚えた。
痛みできつく瞑った瞳を開く、照明が逆光になってとても眩しい。
白く霞む視界の中、浮かんだのは女の子。
その女の子の手が、そっと健の頬に添えられていた。
「……明日香?」
健は何故かその見知らぬ女の子を、知っていた。
遠い昔から、知っていると、今や痛みの治まった頭が告げていた。
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