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大晦日。正月。例年通り家族と明日香と過ごした。
この冬はいつになく忙しくて、怒涛のごとく押し寄せるスケジュールをこなすのに精一杯だった。
学校、塾、家で勉強。その繰り返し。
健にはこの日々の記憶が、ほぼ勉強した、しかない。
同じように明日香も過ごしたはずなのだが、白い靄にかかって、薄ぼんやりとしている。
三月。
「春からまた、同じ高校ね」
そう喜ぶ母の言葉で、ああ、これで小中高と明日香と同じ学校に通うことになるのだな、と健はわかった。
不思議だなと思うことは、きっとたくさんあった。
あったはずなのだが、思った瞬間、その理由付けが頭にすーっと入ってきて、健はそうだったと思い直すのだ。
少し吊り上がった、子猫みたいに愛嬌のある瞳。
健がそのおかしな感覚になるとき、必ずその瞳を見た気がした。
健はまだ知らなかった。
日常は昨日の続きで存在しているわけでは、決してないことを。
明日香という昨日が、実はどこにもなかったことを。
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