迷子

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とても暑い、猛暑の夏日の事だった。 会社から、書類をお得意先まで届ける様に言われ、スーツに着替えてお得意先まで書類を届けに行った。 行きは会社の前からタクシーで届けて良いと言われていた。 でも比較的近くて、徒歩20分位の場所なので、帰りは歩いて帰ってくる様にとの指示だった。 お得意先に書類を届け、スマホアプリで会社までの道程を検索して歩き始めた。 もともと、地図が苦手だった為か、地図通りに歩いているつもりが20分歩いても、30分歩いても、一向に会社に着かない。 そのうち、クラクラと目眩がしてきた。 大きなビルばかりのオフィス街。 エアコンから出る熱風と、元より暑い猛暑の夏日。 ビルの日影でフラフラとしゃがみ込んだ。 暑いと思っていたのに、震えて来た。 (なんか寒いかも……。) と思った時、手にしていたスマホが振動し始めた。 通話を押す。 「は……い……。」 力なく声を出す。 「高橋か?」 樋沼課長の声だった。 ドッキーン!!! としたのも束の間。 呼吸が乱れて来た。 「お前、どこに居るんだ?」 と声がする。 「えっと。歩いて。」 と声に出しているつもりが、掠れて声が出ない。 「おい!高橋!大丈夫か?おい!今どこだ?何が見える?」 と焦った樋沼課長の声がする。 遠退く意識の中、 「マグロ……。」 と言って、その場に倒れた。 オフィス街の昼下がり。 ほとんど人の通らない路地で意識を手放した。
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