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有吏館を出たのは五時。
向かったのは那桜が入院している篤生会病院だ。
那桜は以前、深智が使っていたのと同じ部屋にいた。
一緒に来た拓斗が真っ先にベッドに向かう。
那桜の額に手を当てたあと、起きあがろうとするのを手伝った。
「いいか?」
「退屈、かも」
拓斗を見上げた那桜は文句云いたげで、叶多が想像していたよりずっと普通に元気に見えた。
「叶多ちゃん、こっちいらっしゃい」
詩乃が物云いたげにしながら、入り口に突っ立った叶多を手招いた。
ベッドの上に座り直した那桜が叶多を向く。
やっぱり目を丸くした。
「叶多ちゃん、髪切ったの?」
「あー……えっと」
「美咲の練習台になったらしい」
本当のことを打ち明けていいものか、叶多が戸惑っているうちに戒斗がかわって答えた。
「美咲ちゃん? 美容師になるの?」
戒斗は肩をすくめて問いをかわした。
那桜はびっくり眼から可笑しそうな様に変わった。
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