163人が本棚に入れています
本棚に追加
「叶多ちゃんが失恋するわけないし。というより、戒兄が機嫌悪そう。叶多ちゃんの長い髪、お気に入りだったもんね」
那桜の勝手な解釈に救われ、叶多は安堵しつつ、それが本当だったらまたがんばって伸ばそうと思った。
「那桜ちゃんは……大丈夫?」
ためらいながら叶多が訊ねると、那桜は笑う。
「たぶん、ね」
返事も曖昧であれば、その笑い方も繕っているように見えなくもない。
見た目はどこも悪くなさそうでも、療養というくらいだから精神的につらいのはたしかだ。
訊いたことを後悔した。
叶多の場合、深智のときも今日も独りではなかった。
そこにだれかいること、いないこと、その差はものすごく大きいはずだった。
よかったとも云えなくて、叶多はただうなずいた――と、そのとき。
「大丈夫だ」
那桜のかわりに断言したのは拓斗だった。
那桜は拓斗を見上げて笑う。
さっきとは違う、うれしいというよりは心底から安心したような笑い方だ。
最初のコメントを投稿しよう!