Bound IT

20/32
前へ
/32ページ
次へ
「叶多ちゃんが失恋するわけないし。というより、戒兄が機嫌悪そう。叶多ちゃんの長い髪、お気に入りだったもんね」 那桜の勝手な解釈に救われ、叶多は安堵しつつ、それが本当だったらまたがんばって伸ばそうと思った。 「那桜ちゃんは……大丈夫?」 ためらいながら叶多が訊ねると、那桜は笑う。 「たぶん、ね」 返事も曖昧であれば、その笑い方も繕っているように見えなくもない。 見た目はどこも悪くなさそうでも、療養というくらいだから精神的につらいのはたしかだ。 訊いたことを後悔した。 叶多の場合、深智のときも今日も独りではなかった。 そこにだれかいること、いないこと、その差はものすごく大きいはずだった。 よかったとも云えなくて、叶多はただうなずいた――と、そのとき。 「大丈夫だ」 那桜のかわりに断言したのは拓斗だった。 那桜は拓斗を見上げて笑う。 さっきとは違う、うれしいというよりは心底から安心したような笑い方だ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加