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それから詩乃を有吏館に送っていき、叶多と戒斗が有吏家に帰ったのは六時をすぎていた。
隼斗と詩乃はそのままは有吏館に残るという。
結果、今夜はふたりきりでうれしいかもしれない。
ううん、“かもしれない”は不要だ。
帰るなり叶多は浴室に行った。
有吏家に入るとほっとして泣きそうになって、なお且つ、乱暴に扱われたことを思いだして気色悪くなったのだ。
頭を洗っていると、短い髪がポロポロと落ちた。
悲しいのか怖さを思いだしたのか判別はつかないけれど――それよりは、やっぱり安心からだろう、涙が滲む。
戒斗が入ってきたときはびっくりして、一瞬後には条件反射でパッと目を逸らした。
浴槽は絶対に二人用だと思うくらい余裕があるのに、一緒にお風呂というのが意味ないくらい隅っこに逃げていると戒斗は可笑しそうに含み笑う。
そのすぐあと、無理やり引き寄せられて抱きしめられた。
泣いていい。
それはまるで呪文のようで、叶多の気を一気に緩ませた。
いろんなことがありすぎて、今日一日で何日分もすごした気がしている。
思いだしたくないくらい気が張ることもあって、なんとなくそわそわと落ち着かなかった。
戒斗の呪文で思いっきり泣いたこと。
そうできたことで日常に戻ったと実感した。
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