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さきに浴室を出てリビングにいくとコーヒーを淹れた。
その香りだけで叶多は幸せな気分になれる。
食器棚からコーヒーカップを取りだしてカウンターに置いたところで、戒斗が声をかけることもなく入口にいることに気づいた。
足音がしないのはいつものことだけれど、叶多は目を丸くして見つめる。
「部屋に持ってきてくれ」
「二階に?」
「ああ」
その短い返事をするときはもう背中を向けていた。
なんとなく、戒斗の気分が浮き沈みしているんじゃないかと思えた。
叶多がついさっきまで普通ではなかったように。
ともかく、二人分を用意して、こぼさないように気をつけながら階段を上り、左に折れて戒斗の部屋のドアを開けた。
「戒斗、持ってきたよ」
「ああ。机の上に置いてくれ」
コーヒーカップに集中したまま部屋の中に進み、トレイを机の上に置いた。
声がしたベッドを振り向くと、けっして戒斗が“大丈夫”じゃないことを知らされた。
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