彼の欲しいもの

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   その口の中でのど飴がまたころん、と鳴った。  合唱部の彼女は、よくこうしてのど飴を舐めている。 「センセ、ずっとそのロングヘアだよね。たまにまとめてるの見るけど、ヘアアレンジとかしないの?」 「まあ、仕事が仕事だし……とくに気合いは入れないかな」 「休みの日とかは?」 「クリップで留めてるだけ」 「マジ? センセ、美人なんだからもっと色気出そうよ」 「学校の先生が色気出してどうするの。誰も見ないよ」 「ま、そっか。たぶんセンセからしたらガキばっかだもんね」  ふふ、と鈴が転がるような笑い声がかわいらしい。  お気に入りなのは、こうして仕草や言動のいちいちが素直でかわいいからだ。 .
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