彼の欲しいもの

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   ──まるで理性のないただのメスのよう。  たまに抱擁がゆるめられる一瞬、戻ってくる理性がそんな自覚を促してくるけれど、だからなんだという気持ちにもなる。  むしろ、こんな恥ずかしくてみっともない欲深があたし自身だったのではないか、と。  ……そう思えるのは、目の前の彼も同じようにあたしを求めて、ある面を受け止めてくれているからなのだけど。  最初、彼にののしられるように辱められたことなど、もうどうでもよかった。  いま思えば、あれがなければあたしは賢治郎にまだなんらかの遠慮をしてしまって、こんなふうに抱き返すことなどできなかったと思う。 .
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