彼の欲しいもの

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   琴平さんがうちに振られたのは、頼れる生徒を数人入れることによって、はじめての担任というあたしのプレッシャーを少しでも和らげるため……という気がしなくもない。 「いつもさっさと教室出ていくのに。出席簿持って」  言い咎めるような口調ではあるけれど、彼女は10代のほとんどがそうであるようにものの言いかたが少し雑なだけで、なかなか繊細な子だ。  こちらを気にしているということはわかるので、とりあえず会話に付き合うことにした。 「なんでもない。最近暑くなってきたから、ちょっと疲れたのかも」  遅れ気味だった今年の桜もとっくに散り去ってしまい、黄金週間もあっという間に過ぎていった。  中間考査が迫っているこの季節は、社会人学生問わず五月病が蔓延するころだ。 .
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