始まりの色

10/29
前へ
/454ページ
次へ
だって、航平さんだってお兄さんみたいなものなんだから、”お兄さん”だと区別しにくいし。 「いいよ」 照れくさそうに鼻の頭をかきながら、行成さん……ゆき兄さんは頷いてくれた。 この時、私は単純に、お兄ちゃんができたことにワクワクしていた。 親以外で、頼れる年上の存在ができたことは、少しだけ、私の重荷を軽くしてくれるような気がした。 後で、このことが自分を苦しめることになるなんて、想像もしていなかった。 それから、毎月の面会日の時には、たまにゆき兄さんも一緒に来るようになった。 真理子さんと航平さんは、来たことはない。 だから、私はお父さんを、そして時々はゆき兄さんも、独り占めで来たんだ。 面会から帰ると、お母さんは必ず、私に訊く。 「お父さん、私の事を何か言っていたでしょう?」 それは、聞いてきたことが前提の、質問ではなくて確認。 だから私は、頷いて答える。 「元気でやってるかって」
/454ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加