始まりの色

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私が中学に上がった頃だった。 おばあちゃんが突然、うちを訪れた。 「ここから、引っ越してほしいの」 税金の問題とかで、このマンションの部屋はお祖父ちゃん名義になっていた。 それを、売ることになったんだと言う。 お母さんはもちろん、強硬に拒んだ。 「嫌よ、あの人が戻ってくるかもしれないのに!」 お母さんは、お父さんが再婚して数年たってもまだ、お父さんが戻ってくるという希望を捨てられずにいる。 「香子(きょうこ)、もうこれは決まったことなの」 と、おばあちゃんは痛ましそうにお母さんを見つめて、通告したんだ。 それからすぐに、おじいちゃんが手配したらしい引っ越し屋さんが見積もりに来たりしたので、結局お母さんも、折れるしかなかった。 引っ越し先は、ここよりも少し狭くて古いマンションだったけど、私は気に入った。 「賃貸なんて、みっともない」 と、分譲にこだわっていたお母さんは文句たらたらだったけど。 ただ一つ、残念だったのは、同じマンションに住んでいた成沢先生に会えなくなることだった。
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