始まりの色

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成沢先生は、ボイストレーナーというお仕事をしていて、児童合唱団にいた時にお世話になった。 偶然、同じマンションだったとわかって、時々、お家に遊びに行ったこともある。 娘の翔子さんと二人暮らしで、私より10歳近く年上の彼女にも、仲良くしてもらった。 「また、会えるわよ、きっと」 「元気でね、香純。 歌は、続けるんだよ?」 翔子さんも歌が大好きで、すごく上手だった。 私は頷いたけど、もう二度と会うことはないだろうと、ぼんやり思っていた。 転校することには、それほど抵抗を感じなかったのに、この二人と離れるのは、大好きな歌からも遠ざかるみたいで、寂しかった。 児童合唱団は、6年生の時に退団しなくてはいけなくて、進学した中学には、合唱部がなかったんだ。 新しい学校には、あるといいな。 この頃から、少しずつ、少しずつ、私の周りのものが、削り取るように離れていっていた。
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