始まりの色

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でも、ゆき兄さんの私に向ける目はいつも、ぬるい温度でしかない。 そこに、何かゾクッとする熱や、危険なくらいの暗さは、なかった。 お日様の下で、堂々と”大好きだよ”と言える気持ち。 それは、恋じゃない。 お父さんが、お母さんの事を過去の引き出しにしまったように、ゆき兄さんは私の事を妹の引き出しに入れたんだ。 お母さんの気持ちが、ほんの少しだけ、理解できる気がした。 絶対に、納得はできないけど。 せめて、共通の音楽に関わっていたくて、私は音大を目指した。 でも、仕送りの額が最低限に近づいてきていて、進学に使える余裕はなかったんだ。 私は、現役受験を諦めて、バイトでお金を貯めた。 幸いだったのは、転校先の中学と、その後に進んだ高校が、合唱の強豪校だったこと。 そして、そこで出会ったボイストレーナーの先生が、私の状況を知って、協力してくれたことだった。 だけど、音楽大学はさすがに難関で、しかもお金もかかる。
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