始まりの色

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「香純(かすみ)?」 その、少し気だるげな甘い声に、私は動けなくなる。 まだ幼い私には、色気というものがわかっていなくて、ただ、ものすごくしびれる感じがした。 「香純、こっちが真理子さん。 お兄さんの航平(こうへい)君と、弟の行成(ゆきなり)君だ」 行成、さん。 この時、既にお父さんと真理子さんは入籍を済ませていたので、彼のフルネームは村井行成になる。 「香純ちゃん、よろしくね」 微笑みながら私を見つめる真理子さんから、私はふいっと目をそらした。 本当は、お父さんとお母さんの離婚だって、私は納得していなかったんだ。 ”性格のフイッチ”だって、難しい言葉でお母さんが言っていたけど、本当はわかってる。 お父さんは、お母さんに疲れたんだってことを。 二人が離婚したのは、私が小学校に上がる直前だった。 それから4年。 お父さんはこうして、新しい家族を作ったのに、お母さんと私はまだ、何も変わらないままなんだ。
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