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素直に喜んであげられない自分も嫌だけど、お母さんと正反対の女性を選んだお父さんも、嫌だった。
航平さんは、私をチラッと見たきり、我関せずな態度を崩さない。
私も、いきなりこんな大人の男の人に懐けるはずもなく、そして行成さんが気になって仕方なくて、そちらばかりチラチラと見ていた。
行成さんは行成さんで、完全にうわの空で、何かを口ずさんでいる。
そのフレーズの一部が、耳に引っかかった。
「……ノルウェイの森?」
いきなり、バッと彼が私を振り向いた。
「あんた、ビートルズ聴くの?」
びっくりして一歩下がりながらも、私はぎこちなくうなずいた。
同じマンションに住む歌の先生が、前にCDを貸してくれたことがあったんだ。
「へえ、小学生で珍しいよな」
さっきまでの無関心さはすっかり消えて、目をキラキラさせながら、彼は私に近づいてくる。
そのきれいな顔が、軽く興奮したように生き生きしていて、私は目を離せなかった。
「音楽、好きなんだ?」
「は、はい」
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