始まりの色

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ずっと、児童合唱団に入っているし、ピアノも習っている。 音楽は、歌うのも、奏でるのも、聴くのも好きだ。 「そっか。 俺、バンドやってるんだ。 また良かったら、聴きにおいでよ」 薄い唇が、嬉しそうに横に広がり、甘い声はワクワクした色に変わる。 「歌ってるんですか?」 「まさか。 俺、歌は上手くねーし。 ギター弾いてんの」 行成さんの歌がうまいのか下手なのかはわからないけど、この甘い声で歌うのを聞いてみたいと思ってしまった。 「すみません、父さん」 いきなり横から声がかけられ、私の手をつないだままだったお父さんがそっちを向く。 航平さんが、腕時計を見ながら言った。 「この後、まだ行かないといけないので」 「ああ、そうだったね。 悪かったな、時間を割いてもらって」 ちょっと遠慮がちに言うお父さんに、彼は首を振ると、そこで初めてまともに私を見た。
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