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目と口内を見て、手首を触り脈をとる。
そして、シャツのボタンを外し、胸に聴診器をあてた。
「うん」と渡辺先生は首肯してカルテに目を向ける。
「特に問題は無さそうですね。では、また一カ月後来てください」
渡辺先生はいつものセリフを言い、僕達の退室を促す。
僕が立ち上がり部屋を出ようとすると、「あの……」と絵里が口を開いた。
渡辺先生は「どうしました?」と笑顔を作る。
「先生、分離症患者の……」
そこまで言い、絵里は首を横に振る。
「何でもありません」
「どうした絵里?聞きたい事があれば聞いとけよ」
「……」
絵里は沈黙のあと、「じゃあ」と口を開いた。
「治療法は見付かりそうですか?」
「なんだ、そんな事を聞きたかったのか?」
渡辺先生は考え込み、答える。
「色々と問題がありましてね。症例が少なく……と言っても珍しい病気ではなくなりましたが、それでもやはり研究するには数が少ない。しかも、分離症患者の身体を調べて研究しようにも、患者の皆さんは協力的ではないのです」
「どうしてです?」
僕が聞き返すと渡辺先生は絵里を見ながら言う。
「絵里さんは仮に、下半身を研究のために貸してくれと言われて貸せますか?」
その質問に絵里は黙り込む。
「それが答えです。精密な検査をしようにも上半身と下半身が何らかの空間で繋がっている以上、道徳的にも問題が発生する」
そういうものだろうか……と僕は思い、渡辺先生に会釈して部屋を出た。
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