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アパートに戻り、汗をかいた絵里の身体を拭く。
「ねぇ隆ちゃん」
背中を拭かれながら絵里が言葉にする。
「私達、もう長いよね」
「んー?」と僕は付き合っている期間を計算した。
「そうだなぁ……もう8年ぐらい?」
「うん……」
「どうした?」
「あのね……隆ちゃんの事は好きよ。好きなんだけど……」
何となくだが、僕はその先が予想できた。
「……別れ……よっか」
心臓の鼓動が速くなる。そのたった一言がこれ程ショックだとは思わなかった。
「なんで?」
「私と居ると、迷惑でしょ?」
「迷惑なんて思ってないよ」
「でも最近ボーっとする事多いじゃない。なんか、隆ちゃんの悩んでる姿は見たくないの……」
「それは……」
言葉が出て来なかった。
親の発言が頭を過る。
別れたほうがいいのだろうか?
絵里から言いだしたのだから、ここで僕が肯定すれば、僕は悪者にならなくてすむかもしれない。恋人の希望を聞いてあげた彼氏という綺麗な存在が出来上がる。
“別れちゃえよ”
もう一人の僕が声をかけてきた。
“チャンスだぜ?次はもう別れる機会は訪れないかもしれない。それとも何か?後日、お前から別れを持ちだすか?お前にそんな事が出来るか?別れろよ。もっと良い女捜せ。ほら!ほら!”
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