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「さっき、先生に言おうとした事ね。本当は別のこと聞きたかったの」
「え?」
「分離症患者の生活できる施設はないかって……。そこに行けば隆ちゃんに迷惑をかける事もないし……だから、別れよ」
“本人もそう言ってることだし、別れろよ”
もう一人の僕が再び悪びれる事もなく語りかける。
“別れなさい”
人の感情を理解できない親の言葉が脳内に反芻する。
どうする事が正解なのだろうか?
そりゃあ、確かに普通の付き合い方が出来れば幸せなのだろうなと思う。でも、今が不幸か?と考えると、そうではない。
不幸ではない。
そりゃあ、迷う事もあるし、悩む事もあるけど、絵里の面倒をこうやって看てあげている事を僕は誇りに思っている。
そうだよ。
絶望のどん底に居た僕を救ってくれたのは絵里じゃないか。
9年前。就職活動に失敗して、情けなくて、親や友達にも哀れまれ、責められ、自信を無くして未来に絶望していたら、偶然中学の同級生だった絵里と出会った。
その時絵里に悩みを相談したら、彼女は「何とかなるよ」と笑顔で励ましてくれた。そして、そのあと彼女は色々な遊びに誘ってくれて、少しずつ元気になれたのだ。
人生とは不思議なもので、前向きに事を考え始めると、その方向に人生は動き出す。
今、この状況で一番辛いのは誰だ?
僕か?違うだろ。絵里じゃないのか?
絵里は後ろ向きな方向に進もうとしている。
そうだ。今だからこそ僕が方向転換してあげなくてはならない。
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