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「かわいい顔をしているから客が集まると思ったんだけど、……どんだけ鈍くさいんだい。しっかり働かないと、バイト代を半分にするよ」
DVDやCDの販売とレンタルを手掛ける『メディアショップ野本』のオーナー野本寿江は、東園寺智之(とうおんじともゆき)の背中を勢いよくたたいた。
「冗談じゃないからね。私は、言ったことは必ずやるんだ」
今年は人件費が浮くとほくそ笑みながら、寿江は店を後にする。
強欲なオーナーの背中が自動ドアの向こう側に消えてから、智之は狭いカウンターの内側で大きなため息をついた。
カウンターの上に積み上がったディスクの山は買い取ったCDや返却されたレンタルDVDの数々で、かれこれ1週間、似たような状態にあった。棚に並べるより早く、オーナーがどこからか買い取ったディスクを置いていくからだ。小さな店には商品を保管する倉庫や事務所などなく、カウンターの山が低くなることがない。
山の一番上にあるDVDを手にした。それはとても重く感じる。『メディアショップ野本』のアルバイトが次々と辞めてしまう理由を、その重さの中に実感した。
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