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隙間風さえも心地の悪いその場所からさらに数十メートル上にある居住区画に、その少年はいた。赤銅色に変色した金属の手すりが何本も建て付けられている通路の脇で粉末状の薬品を散布する、「掃除」という作業に勤しんでいる。 アムルンに住む人々は、生まれつき生活可能区域を指定され、その階層でのみ暮らしていた。より星の中央に近い順に下層、中層、上層の三つに区切られている区画によって、人々はさまざまな制約を受けていた。 「掃除」をしている少年を含む中層区画に住む人々は、アムルンに名前を登録することができない。その代わりに統括している組織から送られてくる、数字と英文字を組み合わせたコードで身分を証明することができた。 中層区画に住む人間は、組織に指示された通りに仕事をしなければならない決まりのもとで生きている。「掃除」も、そのうちのひとつであった。 「あー……」 疲れた、という言葉が続くであろうことが容易に想像できる気だるげなため息を吐くと、少年は散布薬の入ったボトルを振る作業をやめる。肩と腕を順番に回して関節をほぐすと、手の甲で額を拭って顔を上げた。 この国には、空がない。
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