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蜘蛛の巣状に張り巡らされた細い通路や階段のわずかな隙間からは白い光が射し込み、飛び交うホコリにスポットライトを当てている。この明かりは上層区画から漏れでたもので、通路の脇などにある小さな階段から見上げると、大きな門を構えた装飾豊かな家々が立ち並んでいるのがかろうじて見ることか出来た。
そして、上層区画のさらにその上には、鉄筋で作られた天井が重く広がっている。
アムルンを覆う青銅色の天井の上のことを、人々は「天井世界」と呼び、おとぎ話のように子どもに伝えていた。それは、誰もが夢見る一攫千金のようなものでも、自らの善行が何倍にもなって返ってくるといった諭すようなものでも、勇気が出るような冒険譚としてでもない。もっとも、天井世界は恐怖の対象として、人々の中に浸透していた。化け物がはびこり、アムルンよりはるかに汚い空気に汚染され苦しむばかりで良いことなどない、というふうに。
「……」
蜘蛛の巣状の通路や階段、全てが広がる根源としてアムルンの中央に聳える白い巨塔を一瞥して、そして、その壁にオブジェのように取り付けてある三本の針で時刻を表すものを見て、少年は肩を震わせた。
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