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「おっ、いたいた! やーん、今日もかっわいーい!」 何かを見つけたのか、少女は、やけにはじけた声でひとりごちる。かと思えば勢いよくぱっと振り返ると、カイの肩を掴んで自分がいたところに座らせ、双眼鏡を押し付けた。 わけがわからないままカイが双眼鏡を覗いて目を凝らすと、レンズの向こうには見覚えのある髪色の少年が家の角で姿勢よく立っているのが見える。何も言わないまま少女を振り返ると、だらしのない顔がカイを待っていた。 「かっわいいでしょー! ロッコきゅん! ズボンと靴下の間からうまれる生足の絶対領域がたまらん! まったくけしからーん!」 「おい、お前こいつの話にまともに付き合わなくていいぞ。気が狂う」 「心のオアシスを見て気が狂うわけがない! タイガきゅんも、もっと世の美少年と真摯に向き合って」 「やーだね、俺は変態じゃねえんだよ」 少女とタイガが言い合っているのに構わず、カイはもう一度双眼鏡に目を当てる。少女が言うように確かに整った顔立ちだが、カイが見たいのはそこではない。首の後ろでまとめている肩に届くほどのその髪の色が、気になって仕方なかった。液体に触れた塩化コバルトにナトリウム灯を当てたかのようなその特殊な色には、見覚えがあったのだ。
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