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「カイ? どうかした?」
「いや……なんでもない」
セトリの声で双眼鏡から目を離す。双眼鏡の向こうの澄んだ瞳は何かを見つけたのか小さくお辞儀をしたところだった。
ーーー
ロッコ少年の仕事は多い。そのうちの一つである郵便受けに届いているものの回収を終えると、大きな家の廊下を進む広い背中の後を慎重に追った。伏せぎみのまぶたは、長いまつげで瞳の色を隠しているようである。長い足を伸ばして早足で歩くコグレの背中に向かって、聞こえるように囁く。
「連絡が三通来ています。ラボ本局からひとつ、CTクラスからひとつ、差出人が書いてないものがひとつです。開封しますか?」
足を止めることなくコグレは首をかしげて考えるそぶりとすると、「ううん」と唸った。これはいつものことだ。
「本局からのものは後で読みましょう。CTクラスからというのはなんなんですかね、それからおねがいします」
「はい」
上層区画の家は、ラボの建物内と同じように電気の明かりをとることが出来るが、コグレの家はそうではない。火に当てたカルシウムのような色のオイルランプがまばらに廊下を照らして、ロッコの陶器のような肌からさらに人間味を打ち消していた。大きな封筒の封を切って、残りの手紙をベストの内ポケットにしまう。
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