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以前コグレがノダに言った言葉だ。 指先の爪にすら命の重みを感じるが、ペアに生まれた以上は仕方の無いことなのだという考えは、変わることがなかった。他者の命を奪う感覚を日々直接実感している施術者であるノダの気持ちを理解するには、コグレは健康すぎたのだ。 健康であることに越したことは無い。しかし、彼にとってはそれはやや枷のようでもあった。 ーーー ラボには複数の研究室があり、それらは優秀な順番にランクが付けられている。巨大な差別システムの元に生きている彼らからすれば、研究室にランクがつけられる程度痛くも痒くもないのだが、自力で地位を向上できることに魅力を感じないほど腐ってもいなかった。 「……」 それは、この暗い実験室でシャーレを見つめる二人も同じ。糸のようなものがゆっくりと変色していく様子を見つめて、髪の長い方がくつくつと笑った。 「今までで一番いい感じじゃない?」 髪の短い方が頷く。 「努力は報われるっていい言葉だね」 そのまま顔をあげると、丸くて大きな瞳がシャーレを照らす明かりにきらめいた。髪の短い方が、くるりと振り返り、そこにある何かに優しく微笑みかける。 「ね、シライさん」 青年の視線の先にあるのは、髪を大量に生やした人間の頭部らしきものだった。大きなトレーに入れられた液体を養分としているのか、静かな生気をまとっている。彼らとよく似た顔を持つその頭は、動くことはなかった。
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