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何もない場所に風が吹くというのは不思議な感覚で、天井世界に来たばかりのアムルンの者は必ずとっていいほど流れる自然風に驚く。そして、それが機械の排気でないと知ってもう一度驚く。風に揺れる芝をじっと見ている彼にも、そんな時代があった。 「……」 明るい光が溢れた景色と澄んだ空気、静かな空間に爽やかな香り。快適さに満ちたその場所に何度も行くには欠かせない、白い防護服を厳重に着こなしたその人物は、乾燥した眼差しで周囲を見渡した後に、背中に身につけていた機械で伸びすぎた植物を刈っていく。素早く回転する鉄製の刃で芝を刈り取りながら、その芝の間に転がっている白い塊を踏みつけた。それは、彼自身が身につけている防護服ととてもよく似たものの一部だった。 『いいのいいの』 天井世界で防護服を脱ぎ捨てた愚かな親友の言葉を思い出そうとするが、もう彼の声は忘れつつあった。防護服が転がっているあたりより先は、芝が自由に生い茂っている。 『じゃあ、これ、頼んだぞ』 親友が進んだと思われる先の道を整備するには、彼はまだ相手のことを鮮明に覚えすぎていた。担当区域の芝を刈り取ると、機械の電源を落としてふっと息をつく。 「おーい、コマエダー!」 遠くから、彼と同じような防護服を身につけた人物が手を振ってきていた。コマエダと呼ばれた彼は手を挙げてそれに応えると、自分を呼んだ相手がいる鉄の扉の元まで歩き出す。太陽の光に輝く緑の明かりを吸収した薄浅葱色のその瞳は、ゆらゆらと揺れていた。
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