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キューシャは驚きのあまりに、うつむいていた顔を上げそうになるのをなんとか思いとどまる。混乱が相手に伝わらないように、一度首をゆっくりとかしげてから息を吸った。
「どういうことですか」
「言葉のままですよ。どこが不思議なんでしょう。それとも、何か心当たりでも?」
「いえ……」
探りを入れるような声色と言葉遣いに、カイは息をのむその喉の音さえ家中に響いているように感じた。良くない状況であることは伝わるのか、心なしかサヤの顔色も悪い。
「友人が訪ねてくることが多いので、どういった話を聞いているのか気になっただけです」
「そうでしたか。ちなみに、友人、というのはどのような人物なのか、聞かせていただいても?」
「……」
キューシャは黙って微笑んだ。
答える気がないということが相手に伝わったのを確認して、「それでは」とキューシャが会話を終わらせようとしたその瞬間、アムルン中にサイレンの音が響き渡った。その音は、昨日も、一昨日も、同じ時間に鳴っていたものだ。カイはこの先の展開を予想して、思わず眉を寄せる。
雨が降っている間は、どこに所属している者であろうと雨宿りをすることが義務付けられている。それは、ラボ隊員も例外ではない。キューシャは言葉につまった。
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