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キューシャはこれまで、他人に期待することなく生きてきた。
しかし今は、仕切り布のすぐ奥にいる少年たちが大きな物音をたてないように、そして、目の前にいる中堅地位のラボ隊員が、彼らの気配を察することのないように、と、必死に願うばかりであった。いつでも取り出せるようにズボンのポケットにしまっている所属研究班識別メダルを布越しにそっと指でなぞった。
家やその中を通るパイプに当たった雨がたてる硬い音が響き渡るなかで、玄関の段に腰掛けたコグレは布の奥に見える広間を一瞥した。
「……随分と可愛らしいお部屋ですね。これまでに私が見た中層区画のどの家よりも居心地が良さそうです」
「それはどうも。ものがゴロゴロしていますが、掃除はきちんとしているのでご心配なく」
「はは、ご丁寧にどうも」
コグレが困ったように軽く笑うと、キューシャはごくりと息をのむ。目を丸くしたコグレが不思議そうに部屋のインテリアを見ているこの間に、雨の時間が終わってくれればいい、とキューシャは拳を握りしめた。
「おや」
小さな呟きとともに、コグレの目がスッと細くなる。キューシャは慌ててコグレの目線をたどるが、その先には特別目に付くものなど何もない。
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