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「何か?」 「いえ……気のせいかもしれませんが、足音が聞こえたような気がして」 「雨の音ではなく、ということですか」 「もちろんです」 表情を変えずに頷くコグレに、キューシャは浅く息を吸って耳を澄ました。乾いた唇をなめて、深呼吸の代わりにまばたきを一つ。 「……私には聞こえませんでしたが」 窓が、勢いの強い雨に揺さぶられて軋んだ。 「ふむ」 コグレの声が、キューシャにはやけに大きく聞こえた。 「これでも耳はいいほうでね、もし心あたりがないなら盗人か何かを疑った方がいいですよ」 「盗人……」 コグレの目が冗談を言っているのではないということがわかるや否やキューシャは服のポケットに手を突っ込んだ。それと同時に、廊下の奥から、パタリ、とスリッパの音がした。
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