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「これは失礼」と軽快に話を完結させて、コグレはそっと耳を澄ました。徐々に弱まりつつある雨の音を聞きながら掛けていた段差からゆっくりと立ち上がると、大きく伸びをする。 「それではそろそろ失礼します。ご協力ありがとうございました」 「いえ……」 キューシャは軽く頭をさげると、扉を開く。雨上がりの道は、ナトリウム灯に照らされててらてらと光っている。 「ああ、そうだ」 コグレが、何かを思い出したようにぴたりと足を止めて振り返った。棒立ちのまま黙っているカイをじっと見て、コグレはにこりと微笑んだ。 「少年、名前はなんというんですか?」 「はっ……」 カイはこみ上げた笑いをこらえることができずに、小さく鼻で笑う。中層の薄暗さとナトリウム灯の微かな明かりで、コグレの目の色はもうわからなくなっていた。カイはコグレに口の端を歪めて笑う。 「ばーか。俺らに名前なんかねえよ」 昔からの親友に言うかのような、軽い口調だが嫌味に感じないその言葉に、コグレは肩をすくめただけだった。 「失礼、そうでした。それでは、また」 お辞儀をすると、白衣はほの暗い世界へと消えていく。遠ざかっていく水っぽい足音と白い背中を見つめるキューシャの目は、ひどく冷たいものだった。
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