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「カイ、サヤとナナを見ていてくれないかな。僕は少しでかけてくるよ。すぐ戻るけど、あまり油断はしないで、できるだけ静かに過ごすようにね。逃げる時のための支度をしていてくれると助かるな」
「逃げる……?」
「ラボの人たちが、カイたちのことを知って捕まえに戻ってくるかもしれない。そうなる前にここを逃げる、そのための支度だよ」
カイはハッとしてキューシャを見上げる。
「俺、さっき何かまずい返事した……?」
キューシャは垂れた目じりをさらに下げて微笑むと、カイの頭を数度軽く撫でた。
「カイは何も気にしなくていい。サヤとナナを、よろしくね」
「……わかった。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
カイにゆるく手を振ると、キューシャは早足で扉の向こうへと出ていった。広い背中がすぐに小さくなり下り階段へと消えていくのを見て、カイは家の扉を閉める。
鍵をしめて目を閉じると、先ほどのラボ隊員の顔がぼんやりと脳裏に浮かんできた。光が当たると赤かと錯覚するやや明るめの色の髪にややつり上がった目、そして目元より下の位置にあるほくろと、明るい光がないと色がわからない暗い瞳。この容姿の特徴に、カイは見覚えがあった。それは、彼本人ではなく、同じ特徴を持った別の人物だった。
『複製のもとになった人と、誰かをもとにして複製された人。僕らはチャイ、誰かの保険の臓器を保存し育てておくためだけの存在なんだ』
セトリの言葉が蘇る。カイはポケットにしまっているベルに手を伸ばした。
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