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カイは扉が開いたままの部屋の壁を指先でそっとノックする。見つめてくる丸い瞳が純粋に光っているのが、カイは少し羨ましく感じた。 ーーー 通信が切れたベルを置くと、セトリは深く息を吐いてもう一つのベルの通話口に向かう。それは、普段カイたちと連絡と取るときに使っている小型のものとは違い、壁についたパイプの先が大きく開いたような特殊な形をしていた。 「聞こえたかな。さっきの」 『ラボが来たってやつだろ』 「そう」 くぐもった音がセトリの耳まで跳ねる。着ている薄いシャツの首元を軽く緩めると、セトリはパイプの表面を指先でつついた。「その上で聞くんだけど」と話し出すその声色は、普段と変わらない優しいものだ。 「今、手はあいているかな」 そう話す目の色は、重く濁っていた。
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