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カイの視線を受けても大きな光を吸い込んだ瞳が揺れることはなく、カイはゆっくりと息を吸う。 ノダの後ろに立っている隊員たちがちらちらと玄関の方へ目をやるのを見て、カイは抵抗するべく踏みしめていた足から力を抜いた。 「わかった。ついてきゃいいんだな」 「賢明な判断ね。……拘束して」 薄く笑ったノダが、後ろの隊員に目配せをする。 腕や首が白い器具で固定されていくのを横目で見ていたカイの自由は、あっという間に白衣のものになっていた。転ばないように足先をなんとか動かして、誘導されるがままゴンドラへと足を向ける。 「……まずい」 カイが複数のラボ隊員に誘導されていく様子を陰から見ていたキューシャは、ポケットの中でメダルを掴んだ。拘束具まみれの小さな体が乗ったゴンドラの扉が閉まる前に覚悟を決めて声を張る。 「待っ……」 「待て」と続くはずだったキューシャの声は、突如現れたモーターの轟音にかき消された。角から飛びだしたはずのキューシャの視界にゴンドラの姿はない。彼の垂れた目には、数多の黒い大きな影が映るのみであった。
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