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ーーいたずらに奪っているって、何の話をしてるんだ……?
セトリと思しき船乗り組員が大きく首を振って、再びノダに視線を戻す。
『話を戻そう。少年を渡せ』
透明なゴンドラから漏れ出た白い光が反射して、黒い浮遊団体の不気味さをいっそう際立たせている。ゴンドラの前方にある操縦席に置かれた小さな端末が小さな音でうなるが、ノダはそれに目をくれることなくため息をついた。
「しつこいわね。彼を渡すわけにはいかないわ。ちゃんと話を聞いたら家に帰すわよ」
『彼の家って、どこのつもりで話してるんだ? そこの家じゃないだろ』
「……チッ」
端末のブザー音を受けてか、焦るように隊員達が目配せをしているのを気にかけることなく、ノダは連絡用パイプを指先でこつこつと叩いた。しかしイラついているのはノダだけではない。身長よりはるかに大きな櫂を持ち直すと、タイガと思われる船乗り組員がしびれを切らしたように声を張る。
『聞きたい話っていうのは、そんなに大事で長いものなのか? 今すませてさっさと解放すればいいはずだ』
「それはできないわ。こっちにも都合があるのよ」
『緊急招集でもないのに中層区画の人間を拘束して連行する都合か』
「何その言い方。……あー、もう、ほんとうにいい加減しつこいのよ、あきらめてさっさと退いてちょうだい!」
苛立ったノダの口調にあおられて、タイガが声を荒げる。
『しつこいのはそっちだろうが!』
パイプすら震えるほどの音圧が空気をゆさぶると、タイガは手に持っていた櫂をぐるりと手の甲で回転させてゴンドラに向かって突き立てるように伸ばす。その先からは炎が現れ、生きているかのように身もだえた。
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