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「お、おい、お前」
「いいのいいの」
相手の制止も構わず男は、脱いだ服の中から黒くて四角い箱のようなものを取り出し、目に当てて構える。上についたボタンを指で押すと、一瞬白い光を出して、立て付けの良い鍵を開けた時と似た音が鳴った。
「何だ、それは」
「んー? なんか、昔使われていた、目に見えるものを複製して紙に閉じ込める機械らしいよ。ずっと前にここに住んでいた人たちが使っていたものなんだと」
「へえ。文明人は贅沢の極みだな。羨ましい」
「ミニマリストのくせに。羨ましくなんかねえだろ」
軽く笑いながら男はその四角い箱を袋に詰めてからテープをぐるぐると巻き付け、そして持ってきていた透明なケースにしまい込んだ。それを相手へと差し出す。
「じゃあ、これ、頼んだぞ」
男の考えを受け入れきれないのか相手はそのケースに手を伸ばそうとしない。二人の間をあたたかい風が流れ、男の髪を撫でて通り過ぎていく。その体験すら新鮮で、日に照らされた自分の肌がやけに白く見えることや足元に生えている草が珍しくもなんともないこと、耳をすませば小川のせせらぎが聞こえることなど、すべてが実現しているこの場所は、男たちにとって夢のようだった。
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