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モーターが動く、ブウウン、という不快音。 四角い鉄の塊は大量の煙を吐きながら不規則に揺れつつ、管理の行き届いていないいびつな地面を這って動いていく。時折何か障害物に接触すると、エネルギー物質に変換できるかできないかを判断したうえで分別処理する。四角い図体の正面にある扉が縦に開き、中から縫うように現れる数本の金属の手がずるりと障害物を取り込んでいった。障害物がなくなると、その塊は再び大きな音をたてて暗がりの中を進む。 生きた人の気配は全くなく、ただ鉄筋が管理されているカンカンという甲高い音と、所狭しとうごめいている機械たちの放つ轟音が耳を支配していた。まっすぐ進むことなど到底かなわないほどにあちこちから突き立てられている鉄の柱からはヘドロがしたたり落ち、そこら中にできている液体のたまり場には泡が山を作っている。そしてそれらからは、鼻をついて吐き気を誘うほどの異臭が漂っていた。 ナトリウム灯の明かりのみが視界の手助けをする、息のつまるような閉鎖されたこの国は、アムルン。ここの暦では現在ニ一六四年、季節は秋。 涼しいような生暖かいような空気が狭い暗がりを通りすぎていった。
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