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 その日、朝帰りをした俊太は朝寝坊をし、無精ひげのまま、リビングへ抜ける廊下をドタバタと走っている。  朝一番に濃いコーヒーを用意しておかなければいけない。  シガレットケースにタバコを補充しなければいけない。  澪には良く冷えた果物を絞ったフレッシュジュースで、寝起きの悪い目を覚まさせてやらなければいけないのだ。  ワンフロアぶち抜きの広さのあるこの最上階は、東吾の住む区画と俊太の部屋や客室のある区画とが、海を見下ろす廊下で繋がっている。  空に浮いているようなだだっ広さが、それまで狭いアパートに住んでいた俊太には落ち着かなく、不必要に大げさな動きをしては、東吾からいつもたしなめらた。  「廊下を走るな」から、「風呂で大声で歌うな」と叱られ、行儀の悪さを何度か澪に笑われたこともある。  リビングの手前ではっと気づき、慌てて今度は抜き足差し足になり、何をやっているんだと自分で自分を笑ってみた。
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