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 この廊下で、退屈していた澪と鬼ごっこをしたのは一昨日だ。  きゃあきゃあと声を上げて逃げ回る澪は全くの子供で、息を荒げながら本当に楽しそうに笑った。 『鬼ごっこ? 家族で? したことないよ。うん、楽しいね俊太。え? お父様はこんな風に遊んでくれなかったよ。能瀬さんがね、あ、能瀬さんってぼくのしつけ係りなんだけどすごく厳しいんだ。廊下を走ったりしたら定規で脚をビシってやられる。家で? う~ん、本を読んだり勉強したり、後は塾へ行って、お祖父様が時々お茶を点ててくれる。うん、茶道って言うよ、裏千家ね。ええ?! プロレス? うわぁ! わぁ~俊太下ろして、下ろしてぇ~~~!』  そんな告白を聞くと、子供らしくじゃれあうことを知らない澪が不憫で、キラキラと笑う笑顔が可愛くて、弟のような情が湧くのを止められない。  崇拝する東吾の情夫として、命をかけて守り抜く存在であることは変わりなくても、一人の少年として見たとき、瑞々しさを失わない十六歳の澪は奇跡だった。
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