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急激に曲がっていく船体に、その慣性力にバランスを取られながら俺はその姿を目に焼きつけるべく睨む。
行く先に待っていたのは、正真正銘の死神だった。
「【黒死魔性】……ッ!」
思わず口に出してしまう――忌々しいその名を。
太陽を背に遥か先の空に浮かぶのは、人型の魔物。
夜の闇より尚暗い漆黒の体躯を有し、僅か二点だけ、頭部に穿たれた白い穴みたいな双眸のようなものだけは虚ろに存在しているが、他にこれといった特徴のない、それでいてあらゆるものを蹂躙し、壊し尽くす異形の化物だ。
遥か先にいて、これほどの濃い影を落とすということは、それだけの規模の大きさがあるってことに他ならない。
それこそ、この船を飲みこむくらいに。
「おい、アイツの大きさは!?」
「は、はい! お、およそ……全長五〇〇m……っ!?」
若い乗組員の返答に、口の中に羽虫が飛びこんできたような気分になる。
まだ距離はあるが、追いつかれるのも時間の問題か。
あちらはいま最高速度で飛行中だろうが、こちらはこれから、転回による減速から再加速する必要がある。
艦橋内のほぼ全員が、青褪めた表情を浮かべていた。
「【黒死魔性】との距離、推定六.九km! 対象の速度は……およそ、は、八〇〇キロ……」
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