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電話番号の件は元々知り合いだからいいとして、これが本人なら、今は逮捕されて警察にいる筈だ。なのにこんな電話をかけてこられるのだろうか。
若干混乱しながらも、意識が逸らせなくて相手の話をただ聞き続ける。その間も知り合いは一方的にじいちゃんじいちゃんとあれこれ喋り続けていたが、こちらの返事がないせいか、途中で話し方を変えてきた。
「じいちゃん、どうしたの? 俺の話聞いてくれてる? じいちゃん?」
これは、電話を切るチャンスかもしれない。そう思い、少しの躊躇いの後、俺は通話相手に人違いであることを告げた。
元々声はまるで違うのだ。聞かせれば他人であることはすぐに判る。そう考えての行動だったのに、返事をした途端、内容など完全に聞き流して、相手はさらに話を続け始めた。
どうやら声の違いなど判っていないらしい。これは無理矢理通話を断ち切るしかないだろうか。
そんなことを考えていた俺の意識に、ふと、とある事実が浮かんだ。
どうしてこいつは、『じいちゃんと話す』ために『俺の電話番号』に電話をしてきたのだろう。
いたずら電話は公衆電話を使ってのものだったし、そもそも誰にも言ってない。声が違いすぎるから俺を特定するなんて不可能な筈だ。
なのに相手は、こうして俺に電話をかけてきた。そして俺のことを『じいちゃん』と呼ぶ。
「違う! 俺はお前のじいちゃんじゃな」
「じいちゃんはじいちゃんだよ。死んじゃっても俺のことが心配で、電話かけてきてくれたんだろ? そのくらい判るよ」
…こいつは何を言っているんだろう。
嘘や冗談でないのなら、こいつの祖父はもう死んでいるということになる。なのにコイツは、たまたま声がそっくりだった俺からのいたずら電話を、祖父からの電話だと信じきったってことか? その時の適当な相槌に従って、何人も死人が出るレベル通り魔事件を起こしたのか?
そんなバカなことがある訳がない。そう思いたいのに、こうして電話はかかってきた。…その上でさらに。
「じいちゃん、俺のしたこと、もしかして怒ってる? そんな筈ないよね? …あ、そうか。俺、いつもは何かあったらちゃんとじいちゃんのトコに顔出してるのに、今回それができてないから、それで怒ってるんだよね? ごめん、じいちゃん。俺、すぐにじいちゃんのトコに行くから」
その言葉を最後に電話は切れた。
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