いたずら電話

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いたずら電話

 夏風邪でも引いたのか、喉の調子がおかしい。痛くもなければいがらむこともないが、声が普段とかなり違う。  俺は、男なのにちょくちょく女と間違えられるような高い声なのだが、今は高齢のじいさんみたいな声になっている。  それが面白くて、俺だと知られぬよう、公衆電話から何人かの友達にいたずら電話をかけた。  口調を変えているせいもあるが、誰も俺だと気がつかない。それがなおさらおかしくて、いたずら電話はエスカレートした。  スマホに登録してあるアドレスに片っ端から電話をかけまくる。と、アドレス交換はしたものの、普段あまり交流のない学友が、やけに電話に食いついてきた。  話を合わせると、どうやら俺の今の声は、相手のじいさんにそっくりらしい。だから実の祖父と勘違いして、色々悩みを話してきた。  口調から、相手が相当のじいちゃん子であることが伝わる。だからこそ真剣に悩みの相談をしていることも。  でも、いたずら電話をしているだけの俺には、正直、深刻な話は面倒だった。  一応会話はしていたが、話の内容は完全に聞き流し状態だ。それでもひたすらあれこれ訴えてくるのが鬱陶しくなって、『自分で好きに考え、行動しろ』と告げて電話を切った。  その後は急に気分がしらけて、もういたずら電話をする気が起きなくなった。  やがて喉の調子も戻り、いたずら電話のことなど忘れかけていた頃に、その知らせが耳に入った。  声が変わっていた時の俺を祖父だと信じきっていた奴が、通り魔になってたくさんの人を殺したり怪我をさせたりしたというのだ。  多少は面識のある相手。いたずら電話のことなどすっかり忘れていた俺にとって、そいつはその程度の存在だった。だからそいつを知ってる奴と、そんなことをするような奴だったか、なんて軽口を叩いてた。本当に、俺にとってそいつはその程度の知り合いだったのだ。  でもあの日、電話がかかってきたんだ。 「じいちゃん! 俺、じいちゃんに言われた通り、自分でちゃんと考えたよ! 考えて行動したよ! これでいんだよね、じいちゃん!」  非通知で、声もろくに覚えていないのに、じいちゃんという単語を連呼する話し方で相手が誰かはすぐに判った。
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