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会計を済ませて、店を出ようとしたとき、ふと七夕飾りが目についた。店に入ったときには気にならなかったが、なんとなく目に止まる。
あまり立派とはいえない笹に、色とりどりの短冊がひしめき合って吊されている。来店客が店内に置いてある短冊に書き込んで、自由に笹に吊せるようになっていた。
そういえば、結愛も保育園で七夕の歌を歌ったとか、何か折り紙で作ったとか言っていたような気がする。
吊された短冊には、様々な願い事が書かれていた。
子どもの拙い字で書かれた願い事。なんとかレンジャーになりたいだとか、お花屋さんやアイドルになりたいとか。はたまた、何々が食べたい、なんてかわいらしいものもある。
大人が書いたであろう短冊もちらほらあった。試験の合格祈願や、誰々と付き合えますようにとか。会社の後輩がいうこときいてくれますように、なんて短冊を見つけたときは、思わず噴き出しそうになってしまった。
七夕の夜空に願うことはもう、なんでもありだ。自分だったら何を書くかしら、と考えたとき、ある短冊がちらりと視界に入った。
妙に気になって、その短冊をひっくり返す。
そこには、赤いペンで一文だけ。
孝一くんとみーちゃんが別れますように
名前も何もなく、癖のない文字でそれだけ書かれていた。
朱美は、周囲の音が聞こえなくなったような気がした。
孝一くんと、みーちゃん。
みーちゃん、というのは、朱美の高校時代のあだ名だ。
今でも孝一からはそう呼ばれている。会っているときも、メールのときも……。
珍しいあだ名ではない。『孝一』だって、珍しい名前でもない。
けど――。
血の気が引いて指先が冷たい。
くしゃり、と短冊が手の中で歪んだ。
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