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食材をカゴに入れながら、朱美はさりげなく店内を見渡す。青果コーナーにはいないようだ。その隣の鮮魚売り場にもいない。
もしかして、今日は休みなのだろうか。しかし、しばらく歩くと目的の人物を見つけた。
食品コーナーで品出しをしている。緑色のエプロンと三角巾を付けたパート店員。
化粧っ気はなく、見るからに地味な女――典子が、朱美がこのスーパーに通う理由だった。
典子は、見ているだけで苛立つような女だ。しかし、同時に典子を見ていると、朱美はえもいわれぬ優越感を感じることができる。
――こんなスーパーでパートなんかしているあの女と比べて、わたしはちゃんとした仕事をしている。
――それにわたしには子どももいる。あの女は結婚こそしているけれど、子どもがいない。いないんじゃなくて、できないらしいけど。不妊治療をしているそうだけど、結果はよくないらしい。
――それに、旦那も……。
朱美はひっそりとほくそ笑んだ。
自分と典子を比べて、見下して、溜飲を下げる。それが、朱美がこの店に通う理由だった。
自分でも歪んでいるとわかっている。それでもやめられなかった。
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