とあるスーパーにて

4/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 食材をカゴに入れながら、朱美はさりげなく店内を見渡す。青果コーナーにはいないようだ。その隣の鮮魚売り場にもいない。  もしかして、今日は休みなのだろうか。しかし、しばらく歩くと目的の人物を見つけた。  食品コーナーで品出しをしている。緑色のエプロンと三角巾を付けたパート店員。  化粧っ気はなく、見るからに地味な女――典子が、朱美がこのスーパーに通う理由だった。  典子は、見ているだけで苛立つような女だ。しかし、同時に典子を見ていると、朱美はえもいわれぬ優越感を感じることができる。  ――こんなスーパーでパートなんかしているあの女と比べて、わたしはちゃんとした仕事をしている。  ――それにわたしには子どももいる。あの女は結婚こそしているけれど、子どもがいない。いないんじゃなくて、できないらしいけど。不妊治療をしているそうだけど、結果はよくないらしい。  ――それに、旦那も……。  朱美はひっそりとほくそ笑んだ。  自分と典子を比べて、見下して、溜飲を下げる。それが、朱美がこの店に通う理由だった。  自分でも歪んでいるとわかっている。それでもやめられなかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!